第9話 1972年 串本のイガミ釣り

2024年07月19日 10:59

出典:高画質フリー写真素材集【Oxygen】

ある日、親父に和歌山に釣りに行こうと誘われた。場所は和歌山県の串本のあたり。行ってから知るがメンバーは親父の飲み仲間5人くらいの男女グループだった。場所は地磯。

地元の人がいたかどうかは不明だが、わざわざ串本まで行くとなると、スナックか居酒屋かわからないがそこで知り合った人の中にも串本を知ってる人がいなけりゃこんなとこまで来ないはず。

岩場に荷物を広げ手際良くビニールシートでタープを張り、親父が一斗缶に金槌と金属のヘラのような物で叩いて穴を開け即席のコンロを作る。
「お父さんかなり遊んではるわ」と飲み友達のおっちゃんが私に言ってきた。

親父が遊んでるところは釣り以外知らないしそのように言われるのは少し嫌だった。しかし串本や徳島へはよく行ってたようで、会社の同僚とはこういう遊びをしてたのだろう。

ダイビングスーツに着替える人もいて、伊勢海老を沢山とっていた。当時は今ほど密漁とかうるさくいわれず、日本海でも漁師に地磯に渡してもらいサザエやアワビを自由に採取できた時代。

親父と私は漁師の操縦する小船に乗り磯を離れる。この漁師がどういうつてで現れたのか誰かの知り合いかは子どもの自分には分からない。しかしわりとセコい漁師で、餌のサワガニを少ししかくれず、箱メガネで海中を見ながら片手で操縦して魚がいればサワガニをほんの少し潰して撒いて、我々親子がズボ仕掛けを投入するという流れだ。

その魚とは現地ではイガミと言われるブダイである。サワガニの一匹がけで投入したらすぐ穂先が海中に突っ込む。ボラの引きなど比較にならないくらいひく。子供の自分は巻くことができず親父に竿を支えてもらいながらの取り込みだった。

正直、餌を撒けば撒くだけ釣れそうだったが漁師がセコく少ししか釣らせてくれず親父もぐちをこぼしてた。

釣ったイガミをみんなのとこに持っていくと、慣れた手つきでウロコを取り伊勢海老と一緒に焼いてくれた。あんなでかい伊勢海老の固まりをほうばったのは初めてでめちゃくちゃ旨かった。

地元でイガミはよく食べられる食材だとみんなが話してるのを聞いた。この時のイガミは現地で魚拓にしたが37cmだった。

出典:PHOTO AC

漁師も近所の裏山の沢に入りサワガニを採っておいて箱メガネで見釣りして晩御飯のおかずにでもしているのだろう。あまりにセコいので親父が船の上で2千円追加で渡してたがそれでもカニはそんなにくれなかった。子供心に漁師はセコいというイメージがついた。まあこうやって乱獲を防いでたのかもだが。他では経験できない楽しい釣りではあった。

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